イタリア紀行2〜サンシーロの悲劇〜

「やられた…」
試合後の混雑により二手に分かれて車まで戻った私達は、一足先に車に到着したY沢さんより発せられたこの一言をすぐに把握することが出来なかった。
ほんの数時間前までそこのトランクにあったカバン、貴重品などすべてが車の中からきれいになくなっている。
S藤さん、私は財布、パスポート、家の鍵などあらゆる貴重品を失ってしまった。
貴重品は失わなかったK橋さん、Y沢さんであったがもちろん持参したカバンはなくなっている。
気温も0℃以下の寒空にただただ呆然と立ちすくむ私達。
「なぜ?どうして?」頭が真っ白になった私達は次のアクションを起こすことさえ出来ない。
時間にして10分ほどが過ぎ、ようやく私達は車を停車していたそばにあったフィットネスクラブにヘルプを依頼しに走る。
警察に電話をしてもらったが、そこはイタリア。警察は事情聴取にすら来てくれない。警察の住所を教えられ、自らが警察へ出向くことになった。
口には出さないまでも、「もう旅行は続けられないかも知れない…」各自の頭にこれらの事が過ぎる。
警察から教えられた住所には警備会社しかなく、たらい回しに遭うように次の場所へ移動させられる。
なんとか警察には到着したが、すでに夜中の12時をまわっているというのに、私達と同様の待遇の人々で警察がごった返している。そこで私達の番がまわって来たのはもう1時を過ぎた頃でした。
「この表に状況などを記載しなさい。」それだけ言われ、記載した紙を提出すると、警察のハンコを1つ押されて事情聴取が終了する。詳しい事情などまったく聞いてもくれない。黙り込む私達。
「行こう!」誰からと言うことなく絞りだされたこの言葉に全員が反応する。「このまま帰ってもしょうがない!パルマへ行こう!」このような大事件に巻き込まれながらもサッカー観戦を続けることを決意したサッカーバカ一同。
2時過ぎにミラノを脱出。最愛の妻からの贈り物の数々まで全て失い失意騒然となったS藤ドライバーはパルマまでの道中私達のどのような問いかけにもまったく反応がない。完全に半死の状態。
それでも、中村俊輔率いるレッジーナが宿泊するホテルと同じホテルに宿を取り、「中村君と一緒に朝食を」をもくろんでいた私達がパルマのそのホテルに到着したのはもう朝も明けそうな4時半過ぎ。
4星のきれいなホテルを楽しむ事もなく、これが悪夢だったら覚めて欲しいとの願いを抱きつつ眠りにつく私達。
このようなサンシーロの悲劇を体験した私達の長い1日がようやく終わった。明日はどんな事が待っているのだろうか…。

続く。