イタリア紀行5 最終章〜国境突破〜

朝8時起床。久しぶりに充分睡眠を取る事が出来て、疲れも取れた気分。
同部屋のY沢さんが先にシャワーを浴びる。
3日ぶりに替える下着。さぞかし気分が良かったのか、白のブリーフ、こちらもイタリアで購入した黒のロングソックスだけを身にまとい、鏡の前で腰に手をあてポーズを取る。「俺もまだまだ捨てたものじゃない。家内への土産はこれにしよう。」
朝9時。ミラノにある日本領事館へパスポートの再発行などの件で連絡を取る。
領事館からの回答は、一時的な証明書の発行などは行わず、正式なパスポートを発行するまでミラノに滞在する必要ありとのこと。
デュッセルドルフの領事館などからも一報を入れてもらったものの、「イレギュラーな処理は出来ない。」やはりお役所仕事である。最近の不祥事続きの名誉挽回などするつもりは全くないようだ。
選択を迫られることになった。残るか?突破するか?
私、S藤さんはそれぞれの会社へ問い合わせをし、パスポートのコピーなど集められる証明書すべてを集めた。不運にも私のところには運転免許のコピーしかなかった。
「それでも行くしかない!」そう心に誓った私達一行は比較的安全と思われる、オーストリア、フランスなどを経由するルートではなく、無謀とも思える正攻法のスイス越えを選択した。
車を走らせ国境が近づくにつれ私達の緊張は嫌でも高まってくる。
国境手前の駐車場に一旦車を止め、パスポートコントロールの有無をチェック。「ほとんどノーチェックだ。行ける。」誰もがそう確信した。
国境超えの列に並ぶ。私達の前10台くらいノーチェックで素通りし、いよいよ我々の番に。すると1人の検査官が私達の車を静止させる。「まずい!」車内の緊張は頂点に達した。後部座席での私の満面の微笑みが利いたのか、検査官は行って良しの合図。やった!密入国成功だ!すぐにでも喜びたいところではあったが、それを見られて再度チェックされるのを恐れた私達は小さくガッツポーズを作った。
その後、スイスのアウトレットに一旦立ち寄りながら、北へ北へと車を走らせた。
途中スイスのトンネルでスピード違反の写真を撮られたようではあるが、この状況の私達にとってそれはあまりに小さな事にしか感じられなかった。
ドイツへの入国も無事済ませ、緊張から開放された私達はどっと疲れが出たが、トーク担の私は一睡もさせてもらえず、ひたすらしゃべり続けた。
私達の住む家が近づいてきた。締めくくりはイタリア紀行でお約束となった「なにわのラーメン」を食べながら、最後の祝杯を上げた。
終わり良ければ全て良し。無事帰宅出来たことに全員が素直に喜んだ。
夜11時。こうして私達の長かったイタリア紀行第3章は幕を閉じた。
こんな事がありながらも第4章、第5章へと続くことを期待しつつ。

終わり。