グッドタイミングでUK出張となったため

2004/6/1 イングランド代表vs日本代表

マンチェスター・シティの新ホームスタジアムで行われたFAサマートーナメント イングランド代表vs日本代表を現地で観戦。
前週にグッドタイミングでUK出張が決まったため、早速チケットオフィスに電話してみた。するとすでに日本サポ席は売り切れで、イングランドサポ席しか取れないとのこと。昔プレミアリーグで見たバックスタンドの過激なサポーターが目に浮かんだが、もうこんなチャンスはないと思って予約する。生きて帰れる様に、日本ユニの代わりにイングランドユニをカバンに入れて出張に出る。後ろめたいが命には代えられない。
当日、バーミンガムでの仕事を終え、電車でマンチェスターへ移動。その電車にも続々とイングランドサポが乗り込んでくる。すでにたらふくビールを飲んだのか、すっかりできあがって歌を歌っている。やはりイングランドユニを持ってきたのは正解だったか。日中は小雨だった空も夕方にはすっきり晴れ上がって絶好の観戦日和。ホテルにチェックインし、魂は日本代表の偽イングランドサポに変身、夜8時キックオフの試合に備えてまずは腹ごしらえに行く。バスターミナル前の混み合った店でもユニ効果か、にこやかに席を空けてもらえる。ええ感じや。まさに狙い通りや。
手早く食事を済ませて、バスでシティスタジアムへ向かう。マンチェスター入りしてから目に付くのは、とにかく沢山の日本人。カップルや家族連れ、年配の人も結構いる。しかも半分以上がイングランドユニを着ており、背中には当然の如くゼッケン7が・・・ 鈍感な筆者はこの時ようやく理解した。そうか、こいつらサッカーやなく、みんなベッカム(様)を見に来てんのか・・なんと嘆かわしい。しかしさすが金持ち日本人。ベッカムを見るためだけに、他になーんにもやることのないマンチェスターまで来るんやから大したもんや。
さてスタジアムに着いてチケットを受け取り、自分の席をチェックする。当然のことながら両隣と前に座るやつのキャラで観戦の快適度は大きく異なる。前に立ちっぱなしのやつがいたらこっちも立たざるを得ないし、タバコやビールのマナーが悪いやつも最悪だ。幸いにして両隣は大人しそうな家族連れ、前列も可愛い女の子3人組。点が入ったら、いっちょ抱きおうたろかい、と新たな野望を抱く。ピッチも近いし、なかなかええ席やないか。しかしほんの数席向こうには、試合前からスコールズとジェラードの名前を交互に叫び続けているフーリガンもどきの軍団が陣取っている。一歩間違えれば危険だった。それにしてもベッカムオーウェンと違って、野郎どもにしか好かれない彼らも気の毒だ。熊の吠え声のような野太い声援だけが彼らをサポートしている。まあ、あのルックスではしゃあないな。黄色い声援はあきらめなはれ。
席に着くと目の前では日本代表がアップの真っ最中。おっ、久しぶりの能活くんだ。ぱっと見は元気そうだけど少し痩せたように見える。やはり食生活に苦労しているのか?大きなお世話だろうが、日本食レストランも大好きなソープランドもないデンマークの生活では、コンディションをキープするのは難しいだろうと同情する。逆に実に健康そうな、こ〜んがり日焼けしたスポ刈りを発見。あんなやつ代表にいたっけ?と首をひねっていると、よく見たらサントスだった。すまんアレくんよ、俺が悪かった。でも髪を切ったら、そう言ってくれんと分からんで。 よく知っている選手達に混じって、他にも2人見慣れない顔が。しかも先発組らしい。恐らくどちらかが加地で、もう一方が玉田なのだろう。
さてスタメン発表。日本代表ではUKで名前が知られている稲本だけに大きな拍手。ここはシティスタジアムなので、ユナイテッド戦でファインゴールを決めた稲本の人気が高いのだろうと、ひとり頷きながら納得する。イングランドもユーロ前のテストマッチとあってベストメンバーが出てくる様子。それにしてもベッカムの名前がコールされるときの歓声はものすごい。前列の3人娘も「デイビーッドおぉぅ」と叫び倒している。そうか、おまえらもベッカムの虜やったんか・・ そんなに必死こいても、お前らとベッカムがどうにかなる訳でもないやろうに・・ とにかくスケベな野望はこの時点で潰えた。
いよいよ選手達がピッチに登場し、スタジアムの雰囲気は最高潮に。国歌斉唱。何と日本語で場内放送が入り、予め席に置いてあった赤と白のビニールを掲げてイングランド国旗を作れとぬかしやがる。何で俺がイングランド国旗の一部にならなあかんねん!と憤りながらも、偽サポだとバレない様にいそいそとビニールを振る。テレビで見ていると結構間抜けに見えるが、やってみると何かええ気持ちや。スタジアムや他の観客と一体化した様な気分になる。
さあキックオフ。試合内容はご存知だろうから、ここでは割愛する。前半はイングランドが攻め倒していたので、コーナーキックを蹴りにベッカムが何度もすぐ近くまで来る。すると例の前列3人娘が気も狂わんばかりの叫び声をあげ、 Vodafoneで写真を撮りまくっている。「今デビッドが私を見たわ!目が合ったわ!!」 ・・・おまえら脳みそ腐っとんちゃうか。
ピッチサイドを見ると、前半から早くも数人の日本選手がアップしている。柳沢と田中、あと三浦と本山、それから・・?? 誰や、あいつは?またしても認識不可能な選手をひとり発見。暖かいのに、ひとりだけ皆と違う色のジャージ上下を着込み、細身に落武者のような髪型、試合展開はあまり気にならないようで、よそ見もせずに黙々と走り込んでいる。 遠目から見るとちょっと袴田吉彦のように見える。そう言えばフットサルが趣味だったので秘密兵器として代表入りしたのか?それともバラエティ番組か何かの企画か?いや冗談が通じないジーコがそんなことを許す訳がない・・ などとバカなことを考えているうちに前半終了。後半もイングランドペースなら、筆者の席からは遠くて何も見えないなぁと思っていたら、予想以上の日本ペースとなる。小野の綺麗な同点ゴールも目の前で見られてラッキー。筆者の近くのお調子者がちょうど必死にウェーブを起こそうとしており、観客もそれに気を取られている間の同点ゴール。瞬間を見逃したやつも多かったようで、イングランドサポは「何が起こったの?」と呆然としていた。ちゃんと試合見とけ。筆者は実は小躍りしたいほどに興奮していたが、今日は偽イングランドサポなので、拍手3回、鼻息2倍アップだけで我慢した。イングランドサポ席にまばらに散らばっている数組の日本サポは、飛び跳ね、抱き合って喜んでいる。おいおい、後ろからすごい形相で睨んでるやつらがおるぞ、生還できへんなぁあいつら・・ まあ他人事やから、どうでもええか。
ふと気付くと、またも落武者がアップ中。だいぶペースをあげているので試合に出るらしい。そしてついに彼の正体が明らかになる瞬間がやってきた。後半15分、2トップが同時に交代。柳沢と、もうひとりは落武者だ!場内アナウンスで「SUZUKI」の名がコールされる。そうか、あれは鈴木だったのか! 密かに Dusseldorfに一番近い所にいる日本人選手ながら、普段全く会話に出ないので、すっかり存在を忘れていた。近所のよしみで応援せねば、と思ったのだが、肝心のプレーはまったくいただけない。頑張っているのだろうけど、全くボールをキープ出来ない。ボールが来る度に倒されるだけでなく、ボールがなくてもターンの時にひとりで滑ってこけている。あかんなぁ〜こりゃ。ファールもらいに出てきた様なもんや。G・ネビルにスライディングで明らかなアフタータックルをかまし、ファールも取られずに撃沈したことが、彼のこの日の唯一の成果だった。それにしても、この場で即座に弟のP・ネビルを交代に出すエリクソン監督はさすが。特に戦術的な意図は見あたらないのだが、何となくみんなが納得出来る采配だ。さすが名将エリクソン。一方で落武者に痛めつけられた足を引きずりながらベンチへ歩く兄ネビルに対して、野郎達から大きな声援。「ギャリー!ユーアーギャァリィィー!」まったくおっしゃる通りなのだが、何の励ましにもなっていない。イギリス人の応援はどうも訳が分からん。
ラスト15分は両チームともパワープレー合戦となり、ボールはよく動くが内容の薄い展開となってしまい、そのままタイムアップ。ドローゲームにブーイングが出るかと思ったが、意外に両チームに暖かい拍手。やはり代表戦はクラブ戦の様な過激さはないようだ。こんなことなら、自分の心に正直に日本ユニを着用すべきだったと反省しつつ、スタジアムを後にした。
終わり

・・・にしたいところだが、これではとてもサッカー経験者の日記とは思えないので、以下、筆者の感想を記録する。

まずは得点に関して。
イングランドの先制点。最終的にはゴール正面にハンブルした楢崎のミスだが、DFが後ろに下がりながらのヘディングクリアを繰り返していたので、いつかは危険な位置で拾われるのは必然だった。かといってDFラインをずるずる下げたら1枚前のチェックが遅れてスペースができ、スコールズやジェラードにミドルを打たれていただろう。前半の展開を考えれば、致し方ない失点か。
日本の同点ゴールは、前半飛ばしすぎて足が止まったイングランドを崩しての得点。それまでほとんど前線に顔を出さなかった小野が、あの瞬間にゴール前に飛び込んできたのはさすがの一言。サイドチェンジから中村の絶妙のスルーパス、サントスの速いセンタリングと、文句の付けようのない組み立てからのゴールだった。

次に各選手のプレーについての感想。
代表の試合は本当に久しぶりだったので、今回の楽しみはなんと言っても初めて生で見る選手達だった。日本を離れて以来、Jリーグを見る機会もなかったので、坪井やサントス、久保らのプレーをじっくり見るのもほとんど初めて。
両サイドストッパー坪井、中沢の出来は非常に良かった。宮本はセンターなんだから、クレバーさだけではなく、もっと「強さ」を見せるべきと感じる。大きなミスもないし声も出してるけど何か弱っちい。これはキャラの問題ですな。あと前半30分過ぎのコーナーキックからのヘディングシュートには腰が抜けそうになった。ボールが来ると予想していなかったのか、まるで居眠りしてるオヤジの頭にボールが当たったという感じ。試合中にぼっーとすんじゃねえよ!稲本と小野はそれぞれの持ち味を最大限に発揮した。この2人はボールを奪った後のビルドアップが早い。小野はほとんどダイレクトで縦に運ぶし、稲本のドリブルもよく効いていた。何より玉際での「強さ」を感じたのは稲本だけだったので、彼の終了直後の負傷退場は本当に残念。中村は後半良かったが、前半の様にスペースがない状況では何もできないのは相変わらず。サントスはようやく持ち味が発揮できるようになった。やはり3バックシステムでのウィングバックが彼にはベター。持ちすぎの感はあるが、前半の様な苦しい状況で、前を向いて勝負してくれるやつがいるとチームは楽になる。初めて見た玉田は「弱い」の一言。きっとJリーグでは活躍しているんだろうけど、代表戦では随分見劣りする。加地も同じ印象。いたのかどうかさえ分からなかったレベル。大したフェイントもなしでスピードだけで勝負してくるサイドバックに縦に突破されている様では、話にならない。あの程度なら誰がやっても同じ。
一方のイングランド。目立つのはルーニーの強さ。半端じゃなく強い。本来は今頃トゥーロンに出ているはずの年齢とはとても思えない。あとジェラード。パス、ドリブル、競り合いでの強さ、どれも素晴らしく、かつミドルの恐さももっている。イングランドのユーロでの成績はこの2人の出来次第かなと感じた。派手さのないスコールズが目立たないのはいつものこと。しかし随所で観客をうならせるプレーを見せていた。最後に人気先行のベッカムだが、見えないところでも本当によく走り、攻守においてチームに貢献している。彼の存在価値は決して右クロスとFKだけではない。今回生で見て、彼がイングランドのキャプテンである理由がよく分かった。

最後に全体まとめ。
イングランドとしては、前半はいい練習になっただろう。激しいポジションチェンジを繰り返しながら、あれだけボールを回せれば、ユーロでもほとんどのチームを相手に中盤を支配できるだろう。結局後半30分過ぎに3人を交代させた時点でテスト終了といった感じ。交代選手によって全体のフィジカルが回復した一方、コンビネーションが変わり、組織的な攻撃の恐さはなくなった。キッチリ調整し、決めるべき場面で点を取れれば、ユーロでも良い成績が残せるのでは。
日本もインド戦前の最後の試合なので、もっと交代枠を使うかと思ったが、(一応)意図のある交代は2トップのみ。インド戦が大事と口では言いながらも、ジーコは意外と勝負にこだわったのかも知れない。マジで勝てそうだったし、その気持ちは分からなくもない。代表監督経験のなかったジーコなので、選手だけでなく監督の成長にも付き合わなければならないのは仕方ないことか。これは元々、協会の責任だ。チームとしての課題は、ありきたりだが、やはり久保のパートナーと右ウイングバック。レベルの低い相手に合わせてしまう悪い癖さえ出なければ、DF、MF陣は中田がいなくても、アジアでは問題ないだろう。ただ今回バックアップを全く試していないのが気になるが。 と言っていたら稲本が重傷の様で、結局多くの人が感じただろうこの不安は的中することになった。インド戦で、もしものことがないよう祈りつつ、ホントに終わり。


                          ぐっさん